2006年10月22日 (日)

聞き耳幻八浮世鏡 黄金小町

吉田雄亮著   双葉文庫   評価 ☆☆☆

カバー(裏表紙側)に「書き下ろし長編時代小説,待望の新シリーズ第一弾」とあるので,導入部はレギュラーとなる主要人物紹介から始まるだろう,聞き耳幻八とは,どんな男なのだろう,と期待をもって読み始めました。(カバーイラストを見ると、素浪人のいい男って感じです)

カバーイラストどおりに,大川の岸辺で女の死体が見つかり,北町奉行同心の石倉五助が現場に出向きます。川から引き上げた死体を見聞しているところに,「月代をのばした,着流しの,浪人者としかみえない男」が登場します。

主人公の聞き耳幻八の登場です。

「読売の文言書きや人情本などの戯作をしている」,というのは,現代で言えば,さしずめルポライターでしょうか。「れっきとした四十俵二人縁扶持,小普請組組下の御家人,朝比奈哲三の嫡男」で,剣の腕は凄くて,芸者の駒吉と同棲しているという人物像は,娯楽色が強い時代小説にはよくある形です。

さて,引き上げられた死体は,芸者の染奴。駒吉の所にときどき遊びに来ていて,二人の世間話を耳に挟んでいた内容は,読売におあつらえ向きのスキャンダルねたとくれば,版元の玉泉堂の主,仲蔵も見逃すはずがありません。

「まず女の死体が,大川は御船蔵の近くに浮いた。女はなかなかの美形で,どこの何者か続報で明らかにする,と読み手の気を引く終わり方で第一報を出す」ことになります。

染奴の客筋,つまり,スキャンダルねたの大店の主に対して,幻八がとった行動とその理由など,幻八を巡る人間関係が事件の進展に合わせて描かれていきますが,まだらっこしいというか,面白味に欠ける感じがしました。

しかし…

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2006年10月18日 (水)

大岡越前

吉川英治著 講談社電子文庫  評価 ☆☆☆

大岡越前と言えば、テレビや映画でおなじみの名奉行です。当然、悪いことなどするはずがない、清い人だと思っていましたので、若いころを描いたこの作品の大岡市十郎の姿には、大きな違和感を抱いてしまいました。

悪い従兄弟に誘われたとは言え、お袖を抱き、お燕という子をなしたのに、母娘を捨ててしまう市十郎。

よくある大岡裁きものだと思って読み始めたら、導入部で優柔不断、私が嫌いなタイプの人間である市十郎が登場し、それが後に南町奉行の、あの越前守だなんて、もう幻滅です。

もう、なんでこんな人物像に描かなきゃならないんだと、思いながら読み進んでいきました。

若き日の吉宗との出会いのシーン、市十郎の内面の葛藤、立ち直って行く過程で、市十郎を導いたり、支える人々。

最後まで読み終わってみると、大岡裁きができるのは、自分の弱さや悪政が悪事の引き金になること、それを悩み、悔いる心の重さを、自分自身で乗り越えてきたからなのだ、ということがわかってきます。

半ばを過ぎたあたりから、いやな奴だと思っていた市十郎が好ましい人に思えてきました。作品の中で主人公が変わって行くのが、読み手の私に呼応して、自分が主人公と同じ目線になっていることに気づきました。

最後の方で、越前守が追い詰められていくあたりは、もう気が気ではなく、PDAのカーソルキーを一生懸命、動かしてしまいました(Zaurus のブンコビューワーを使って読みました)。

※上記は書籍版へのリンクです。

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2006年10月17日 (火)

しゃばけ

畠中恵著  新潮文庫  評価 ☆☆☆☆☆

冒頭に,国語大辞典『言泉』(小学館)の引用から,タイトルの「しゃばけ」の意味が記載されています。

娑婆気(しゃばけ) 俗世間における,名誉・利得などのさまざまな欲望にとらわれる心

江戸有数の廻船問屋長崎屋の一粒種の一太郎(若だんな)が湯島聖堂の塀際の道で人殺しとばったり出会ってしまったことを発端に話が始まります。読み返してみると,外出もままならないほど病弱かつ「箱入り息子」の若だんなが闇夜に遠出することになった遠因も,次々と人殺しが続いたのも,人の心の奥底にある娑婆気が生み出した結果が引き金になっていたことに気づきました。

第13回日本ファンタジーノーベル大賞優秀賞を受賞した作品だけに,いきなり,「鈴が化して妖となった」「付喪神(つくもがみ)」の「鈴彦姫」が登場し,「なぜ今日は,犬神さんも白沢(はくたく)さんもお供していないのですか?」と若だんなに質問する場面が出てきてます。フツウの時代小説だと思って読み始めたので,妖怪が人と同じ姿をして,人として生活しているという設定にちょっと面食らってしまいました。

若だんなのお供を何故,妖がするようになったのか。そもそも祖父である長崎屋の先代は,わざわざ妖を孫の守り役にしたのか。妖が見えるということ事態がフツウじゃないのに,なぜ,若だんなには妖が分かるのだろうか…。

読み進みながら感じる素朴な疑問も,話の展開の中で,ああそうなのかとわかってきます。

妖怪が主要登場人物になる小説は,どこか殺伐としたものを感じるものしか読んだことがなかったので,ふらり火,鳴家(やなり),屏風のぞきと次々と登場するほのぼの系の妖たちにがかわいさを感じます。

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2006年10月16日 (月)

氷の女王が死んだ

コリン・ホルト・ソーヤー著  中村有希訳  創元推理文庫  評価 ☆☆☆☆

高級リゾートホテルを改築した富裕層向け老人ホーム「海の上のカムデン」で,またもや入居者が殺されるという事件発生。死体の第一発見者グループに入っていたため,というよりも平凡でたいくつなホームでの日々では味わえない,わくわくする冒険のチャンスが巡ってきたのを逃すような人ではありません,アンジェラというご婦人は。

早速,親友のキャレドニアと一緒に「調査」を始めます。ハンサムなマーティネス警部補に会って話を聞いてもらいたいという,ほのかな「恋心」も微笑ましく描かれています。

事件は,タイトルの表現どおり,氷のように冷たく,女王のように高慢ちきな新入りの入居者エイミー・キンゼイが被害者です。凶器は、死体発見場所にあって当然の品。やがて二つ目の殺人が起こりますが,この凶器も殺人場所からいけば,特別なものではありません。密室殺人やアリバイ崩しなどの「本格派」の事件と比べると,そういっちゃぁなんですが,平凡です。

そうなのです。1冊目の「老人の生活と推理」と同じように,いえ,それ以上に「カムデン」の人々が生き生きと描かれているところに魅力を感じます。

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2006年10月15日 (日)

老人たちの生活と推理

コリン・ホルト・ソーヤー著  中村有希訳  創元推理文庫  評価 ☆☆☆☆☆

シリーズ物として書かれるミステリーの主人公は,警察官とか探偵,あるいは法医学者のように犯罪と関わることを仕事にしている場合以外は,新聞記者とかルポライター,作家のように,あちこちに出掛けるために偶然,事件と遭遇してしまうという設定が多いのですが,この作品の主人公は「海の上のカムデン」という老人ホームの入居者です。

書店で翻訳物の文庫を手にしたときに,最初に読むのが「あとがき」や「解説」です。タイトルと主な登場人物を見るだけでは,面白そうなのかどうか,私好みの話の展開になりそうな作品なのかどうかがわからないので,あとがきを読んで,面白そうな場合,購入して読む習慣になっています。

「老人たちの推理と生活」も「訳者あとがき」を斜め読みし,最後の作品リストを見た瞬間,思ったのが,老人ホームでそんなに沢山の殺人事件を起こせるの????ということでした。老人ホームって,なんとなく,ほのぼのとした感じがしそうじゃないですか(笑)

ところがどっこい,そうじゃない。長く生きるってことは,様々な重さを背負ってしまうことになるし,憎悪も生まれてくる…。

この作品の魅力は,なんといっても,「海の上のカムデン」に住む人たちの人間像です。

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2006年10月14日 (土)

永遠のレジェンド 全3巻

歴史家の結城晴信が民俗学にからむ事件の謎を解くBLもののライトミステリーです。

1冊目は長編ですが,2冊目は「白い椿の伝説」という短編と「花がたみ」の2本立て,3冊目は「ムカサリの罠」と「澪つくし」という中編と「外伝・夢がたり」という短編の3本立てになっています。民俗学にからむ事件ということでは,「永遠のレジェンド」は「猿蟹合戦」,「花がたみ」は「六部殺し」,3冊目の「澪つくし」は「八百比丘尼」のお話が「日本民話の会・編『決定版 日本の民話事典』/講談社+α文庫より」という形で引用されていて,それぞれ「事件の背景」になっています。

「事件の背景」と書きましたが,いわゆる民話をなぞった連続殺人事件というのではありません。民話と事件がどういうつながりを持つのか?

民話の中にある心の闇がテーマと手がかりになっています。

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